「経営の足元を立て直す3ステップ」 第1部「味方をつくる」
第1部「味方をつくる」 第2回
「正しい分析」だけでは、人は動かない──不確実な時代の社長の判断
あるベテラン製造業の社長から、こんな相談を受けました。「市場の先が読めない。データを集めても、結局どう動けばいいのか分からなくなる」。
真面目な社長ほど、こうして「正確な情報がそろうまで動けない」と立ち止まります。気持ちはよく分かります。けれど、変化の激しいいまの時代、情報が完全にそろう日はやってきません。動けないまま、時間だけが過ぎていく。これがいちばんもったいない。
「新しいこと」の前で、解釈はバラバラになる
経営で正解が見えなくなる場面は、だいたい2つです。ひとつは、市場の急変や取引先の撤退といった、こちらが意図しない環境変化。
もうひとつは、新規事業や業態転換のように、自ら意図して新しいことを始めるとき。どちらも「過去のやり方が通用しない」点で共通しています。
こういう場面で効いてくるのが、経営学者カール・ワイクの「センスメイキング」という考え方です。日本語にすれば「腹落ち」。社員や取引先、銀行といった周囲の人たちが、「いま何が起きていて、自分たちはどこへ向かうのか」に納得し、足並みをそろえていくプロセスのことです。
その出発点になるのが「多義性」という考え方です。私たちは「認識のフィルター」を通してしか物事を見ていません。だから同じ環境を前にしても、人によって解釈も意味合いも変わってくる。しかもこの多義性は、状況が新しく、予期できず、混乱していて、先行きが見通せないときほど顕著になります。みんなの解釈がバラけるのです。
やっかいなのは、こういうときには「絶対的な一つの正解」を見つけることが、そもそも不可能だということ。正確な分析を待っても答えは出ません。だからこそ、バラバラの解釈の足並みをそろえることが、何より重要になります。
リーダーの仕事は「解釈をそろえる」こと
新しい場面や、困難にぶつかっているとき、従業員は同じ環境を見て、社長の同じ言葉を聞いていても、一人ひとりまったく違う受け取り方をしていることがあります。これが多義性です。放っておくと、解釈はどんどんバラけていきます。
だからこそ、リーダーの出番です。社長が自ら意味づけをし、ストーリーで語り、納得してもらう。そうやって多義性を減らし、組織の足並みをそろえていく。これがリーダーの役割です。
ワイクの主張はシンプルです。先の読めない状況では、「正確性」よりも「納得性」のほうが組織を動かす、と。完璧に正しい分析を待つよりも、多少粗くても全員が腹落ちできる一本の筋があるほうが、人は動くのです。
分析は要る。ただし「ある程度」でいい
分析が要らない、という話ではありません。PEST分析や5フォースで外部環境を読み、SWOTで自社の強み・弱みを棚卸しする。これらはむしろ、説得力のある方針を組み立てるための「材料」です。
「世の中はこう動いている。当社にはこういう強みがある。だからこの事業をやる」。この一連の流れがあって初めて、社員も金融機関も納得します。逆に、何の分析もなく社長の思いつきや勘だけで戦略を語っても、誰もついてきません。
問題は、分析の精緻化ばかりに気を取られて、いつまでも動かないこと。これは本末転倒です。目指すのは、自分も、従業員も、金融機関も納得できる「ある程度」の正確さ。変化の激しい局面や、前例のない新規事業では、そもそも完璧な分析は不可能です。ある程度の方向性が見えたら、仮説を立てて動き出す。完璧を待つ必要はありません。
では、その「ある程度」の方向性を、どう周囲に語り、どう動き出せばいいのか。後編では、人を動かす「ストーリーの力」と、動きながら意味を見出していく「イナクトメント」についてお話しします。
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